「主の慈しみは、とこしえに」(1)」
ダビデの歌
103:1 わがたましいよ、主をほめよ。わがうちなるすべてのものよ、その聖なるみ名をほめよ。
103:2 わがたましいよ、主をほめよ。そのすべてのめぐみを心にとめよ。
103:3 主はあなたのすべての不義をゆるし、あなたのすべての病をいやし、
103:4 あなたのいのちを墓からあがないいだし、いつくしみと、あわれみとをあなたにこうむらせ、
103:5 あなたの生きながらえるかぎり、良き物をもってあなたを飽き足らせられる。こうしてあなたは若返って、わしのように新たになる。
日本聖書協会『口語訳聖書』詩編 103篇1-5節
説教 「主の慈しみは、とこしえに(1)」
1.聖書は私たちに呼ばわって言う
この詩篇は、
103:1 わがたましいよ、主をほめよ。わがうちなるすべてのものよ、その聖なるみ名をほめよ。
103:2 わがたましいよ、主をほめよ。そのすべてのめぐみを心にとめよ。
と、「わがたましいよ、主をほめよ」の繰り返しで始まり、
103:22 …わがたましいよ、主をほめよ。と結ばれます。詩篇記者は、全身全霊を献げて神を誉め讃えずにはおられないようです。彼は神の恵みを余すところなく体験して来ていることが覗われます。ここで使われている命令形の繰り返しは、一般的に、読者がそこで言われている様な状況にない時に使われます。現に今私たちは、この詩篇を読んで「そうだ、私も聖なるみ名をほめよう、主のすべてのめぐみを心にとめよう」と、どのくらい思えているでしょうか。
今日の詩篇は、「あなたも『主の慈しみはとこしえに』と神を心の奥底から誉め讃えようではないか」と私たちを招いています。
2.この詩篇に秘められた福音
さて、この詩篇103篇ですが、大いに福音的な詩篇と言われています。
みなさまもご存じのように、福音とは神からの賜物で、神がイエス・キリストによって御自身の約束を成就された「良い知らせ」です。その「良い知らせ」とは、神はイエス・キリストを通して私たちを罪の奴隷状態からあがなして(買い戻して)て、神の子としての身分を授けて下さることです。罪の赦しと死と滅びの縄目からの解放の知らせ、それが「良い知らせ」、福音です。
詩篇103篇は、今申し上げたことが主題になっているので、「大いに福音的な詩篇」と言われますが、日本語訳聖書を読むだけでは判りにくい嫌いがあります。なぜなら、翻訳では元の言葉のニュアンスを表現しきれないからです。そこで今日は、3-5節に秘められた福音を掘り起こすようにしながらお話ししてまいります。
3.この詩篇が福音である所以 ~「罪の赦し」
103:3 主はあなたのすべての不義をゆるし、あなたのすべての病をいやし、
ここで真っ先に目が向くのは「すべての病をいやし」の文言ではないでしょうか。すると“無病息災”を期待します。しかし、主イエスを信じていようがいまいが病気になるという現実に水を差され、「聖書は信じられない」と躓いたり福音を受け取り損ねるのが関の山では無いでしょうか。キリスト教信仰で病についての聖書的理解は非常に重要です。3節で「病」と訳されている言葉は、聖書で5回しか登場しない特別な言葉です。一般的な病気のことではなく、神に対する不義や罪への裁きとして神が下す“病”のことです。ですから、
(1)ここで約束されていることは、神は私たちのどんな病気でも癒やしてくださるということではありません。罪の裁きとしての「病」を免れさせてくださるということです。
(2)キリスト者が体験するすべての病気は、神の裁きの結果ではありません。歴史を通して私たちが知るように、病気は古き肉体を持つ者が避けられない現実です。確かに神は御心ひとつで病気を癒やすことがおできになりますが、私たちは神を試みることをせず、その病状に適した治療を受けるべきです。病気になったキリスト者に「バチが当たった」と言う心無い方が時々いますが、自分が病んだ時はどう思うのでしょうか。
(3)時代背景と文脈を無視して聖書を読むと、福音が判らないどころかとんでもない躓きのもとになります。
イザヤ53:4 まことに彼はわれわれの病を負い、われわれの悲しみをになった。しかるに、われわれは思った、彼は打たれ、神にたたかれ、苦しめられたのだと。
とありますように、イザヤ書でも、主イエスの十字架を通して明らかにされた、とこしえに変わることがない主の慈しみが記されており、詩篇記者が受けた「罪の赦し」の恵みを自分のたましいに言い聞かせ喜んでいます。
4.この詩篇が福音である所以 ~「贖い」
続く4節は「いのちの贖い」についてです。
103:4 あなたのいのちを墓からあがないいだし、いつくしみと、あわれみとをあなたにこうむらせ、
と書かれている「贖い」は、
マタイ20:28 …人の子がきたのも、仕えられるためではなく、仕えるためであり、また多くの人のあがないとして、自分の命を与えるためである
と言われた主イエスにより成し遂げられました。そして「神のいつくしみと、あわれみ」は、ナインという町に住むやもめの一人息子を主イエスが生き返らせて下さった出来事(ルカ7:11以下)に端的に現された通りです。詩篇記者は、自分のたましいが受けた「いのちの贖い」の恵み、神の慈しみと憐れみ深さを回顧しています。
5.この詩篇が福音である所以 ~「神の国の本質」
続く5節では、神の御支配と神の国の本質、この二点について書かれています。
(1)第一に、
103:5a あなたの生きながらえるかぎり、良き物をもってあなたを飽き足らせられる。…
この御言葉を聞く私たちは、それぞれ「良き物」を思い描く事が出来ると思います。詩篇記者が語るところの、彼の魂を飽き足らせた良き物、私たちをも満足させようとしておられる良き物の「良さ」とはどんな良さなのでしょうか。そのことが判る箇所があります。
創世記 1:3-4 神は「光あれ」と言われた。すると光があった。/神はその光を見て、良しとされた。…
この「良さ」なんです。神が私たちを満足させようとしておられる物の「良さ」とは、神の目的に適って美しく優れた良さです。私たちの主でいて下さる神は、この様な良さで私たちを飽き足らせようと願っておられます、これが「良き知らせ」福音です。ですから、私たちの目と心をこの世の物で満杯にせず優先順位を考えるべき事を主イエスは繰り返し教えて下さっています。時には神の御前に静まって、神が与えようとされている良き物と自分の欲求とを比べてみては如何でしょうか。
(2)神の御支配、神の国の本質の第二は5節後半です。
103:5b …こうしてあなたは若返って、わしのように新たになる。
「あなたは若返って、わしのように新たになる」とありますが、同じ事が記された箇所があります。
イザヤ40:30-31 年若い者も弱り、かつ疲れ、壮年の者も疲れはてて倒れる。/しかし主を待ち望む者は新たなる力を得、わしのように翼をはって、のぼることができる。走っても疲れることなく、歩いても弱ることはない。
詩篇でもイザヤ書でも、力強く天に向かってはばたく鷲が、神の力を受けて歩む信仰者のたとえとして用いられています。このことを教理的に言えば「新生と再生の恵み」に与ることです。神によって新しく生まれさせられ、キリストに倣う生活へと入れられ、聖霊がもたらす霊的変化に与ることです。この「良い知らせ」福音が5節です。
6.私たちは、自分の魂にどう語っているか以上お話ししたことから判りますように、詩篇記者は、彼自身が受けた神の恵み、いつくしみとあわれみを「心にとめよ、神を喜べ、ほめよ」と自分の魂に言い聞かせています。ところで、私たちが自分の魂に言い聞かせるとすれば、どんなことをでしょうか。主イエスは、この世の人々の一般的傾向について、一つの譬え話をして下さいました。
ルカ 12:15-21 それから人々にむかって言われた、「あらゆる貪欲に対してよくよく警戒しなさい。たといたくさんの物を持っていても、人のいのちは、持ち物にはよらないのである」。/そこで一つの譬を語られた、「ある金持の畑が豊作であった。/そこで彼は心の中で、『どうしようか、わたしの作物をしまっておく所がないのだが』と思いめぐらして/言った、『こうしよう。わたしの倉を取りこわし、もっと大きいのを建てて、そこに穀物や食糧を全部しまい込もう。/そして自分の魂に言おう。たましいよ、おまえには長年分の食糧がたくさんたくわえてある。さあ安心せよ、食え、飲め、楽しめ』。/すると神が彼に言われた、『愚かな者よ、あなたの魂は今夜のうちにも取り去られるであろう。そしたら、あなたが用意した物は、だれのものになるのか』。/自分のために宝を積んで神に対して富まない者は、これと同じである」。
如何でしょうか。詩篇記者と「ある金持」が自分のたましいに言い聞かせたことは天と地の如く掛け離れています。詩篇103篇は、「主イエスの譬え話の本質を霊的に洞察して自ら行いなさい」と私たちに呼ばわっていないでしょうか。
7.むすび
103:1 わがたましいよ、主をほめよ。わがうちなるすべてのものよ、その聖なるみ名をほめよ。
103:2 わがたましいよ、主をほめよ。そのすべてのめぐみを心にとめよ。
私たちも、主イエスへの信仰によって、神の「すべての恵みを心にとめ」たいものです。とりわけ主イエスの御業を通して私たちに与えられている恵み、とこしえに変わることがない主の慈しみに心にとめようではありませんか。また、「心にとめる」といっても、ただ心の中で有り難いとか感謝だと思うだけでなく、十把ひとからげに、たとえば「今日一日のすべての恵みを感謝します」というようにではなく、詩篇記者の様に、一つひとつの恵みを具体的に思い起こし、その一つひとつについて感謝し祈り、神を誉め讃えてまいりましょう。
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