岡本牧師と共に味わう讃美の力 (第28回) 「羊は眠れり」Sheep Fast Asleep~シンシナティ日本語教会主催

岡本牧師と共に味わう讃美の力 (第28回) 「羊は眠れり」Sheep Fast Asleep~シンシナティ日本語教会主催

2:8 さて、その地方で、羊飼いたちが野宿をしながら、羊の群れの夜番をしていた。
2:9 すると、主の使いが彼らのところに来て、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。
2:10 御使いは彼らに言った。「恐れることはありません。見なさい。私は、この民全体に与えられる、大きな喜びを告げ知らせます。
2:11 今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです。
2:12 あなたがたは、布にくるまって飼葉桶に寝ているみどりごを見つけます。それが、あなたがたのためのしるしです。」
2:13 すると突然、その御使いと一緒におびただしい数の天の軍勢が現れて、神を賛美した。
2:14 「いと高き所で、栄光が神にあるように。地の上で、平和がみこころにかなう人々にあるように。」
2:15 御使いたちが彼らから離れて天に帰ったとき、羊飼いたちは話し合った。「さあ、ベツレヘムまで行って、主が私たちに知らせてくださったこの出来事を見届けて来よう。」
2:16 そして急いで行って、マリアとヨセフと、飼葉桶に寝ているみどりごを捜し当てた。
2:17 それを目にして羊飼いたちは、この幼子について自分たちに告げられたことを知らせた。
2:18 聞いた人たちはみな、羊飼いたちが話したことに驚いた。
2:19 しかしマリアは、これらのことをすべて心に納めて、思いを巡らしていた。
2:20 羊飼いたちは、見聞きしたことがすべて御使いの話のとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。

(ルカ2:8-20、新改訳2017)
日本聖書協会『口語訳聖書』ルカによる福音書 2章8-20節


■ 1.讃美歌略解
(1)作詞 三輪源造(1871-1946年)
まず、作詞者です。
作詞者の三輪源造は、明治4年(1871年)、現在の長岡市与板(よいた)で生まれました。そこでは戦国時代から打刃物(うちはもの)が生産されており、今では伝統工芸品に指定されています。

その三輪源造は、15歳で同志社教会で洗礼を受け、同志社卒業後は現在の松山東雲学園、横浜共立学園、同志社女子大学といったプロテスタント系女子教育機関で国語、国文学を教えました。

彼が「羊は眠れり」を作詩したのは、日露戦争から二年の後、彼が36歳の時で、明治版『讃美歌 第二篇』 (明治42年)第57番に収録されました。
国文学者である彼の歌詞は、当時の文壇の主流であった美文調と、八六調四句という修辞技法を凝らした美しい詩で、懐かしさと味わい深いさを感じさせます。
なお、この歌詞は、昭和16年(1941)に鳥居忠五郎が作曲するまではマーガレット・ブラウン作のメロディーで歌われました。

(2)作曲 鳥居忠五郎(1898-1986年)
現行讃美歌のメロディーは、鳥居忠五郎が昭和16年(1941)、太平洋戦争開戦の年に、それ迄の曲に代わるメロディーの依頼を受けて作曲しました。ある日世田谷と目黒の境にある柿の木坂を流れる呑川(のみかわ)のほとりを散歩中に曲想が湧き、一気に書き上げたと伝えられています。当時このあたりは人家がなく緑の多い全くの田園野趣に富む地域でした。

鳥居忠五郎は、明治31年(1898年)、北海道の遠軽で開拓伝道をしていた牧師の家庭に生まれました。
彼が生まれた年は、キリスト教的移住団体「北海道同志教育会」の第一回移民団が入植したことにより遠軽町の開拓が始まった翌年です。
しかし彼が生まれた年に集落は未曽有の洪水に見舞われ、開拓を断念し故郷へ帰る者が相次ぎ、残された者も希望を失い困窮を極めた。そうした人たちが心の拠り所として、明治32年に建てられた集会場で彼の家族は伝道し、そこで彼は育ったのです。この時の集会場が現在の日本キリスト教会遠軽教会の母体です。

その後彼は、小学6年から中学4年まで親戚に下宿しながら東京の明治学院で学び、今の東京藝術大学音楽学部で学びました。中学4年までの下宿生活中、並々ならぬ忍苦を耐え忍びつつ教会に通ったことで、彼の精神は鍛えられ、教会以外では耳にすることができない慰めに満ちた音楽に豊かな養いを受けました。

(3)英語歌詞「Sheep Fast Asleep」
添付資料2に掲載した英語歌詞「Sheep Fast Asleep」は、西山姉がご紹介下さった讃美歌集からの転載です。米国人宣教師ジョン・モスが昭和32年(1957)に日本語歌詞から翻訳したものです。彼は、1968年新潟市に開設された現在の敬和学園高等学校の副校長に就任し、1984-1990年は第二代校長を務めました。

彼の英語訳歌詞ですが、
・国文学者三輪源造の信仰表現を生き生きと引き継いでおり、
・曲とも素晴らしくマッチし、
日本語の讃美歌の訳であることが信じられない程です。
また、ルカ2:14の続き、15-20節まで歌い上げています。


■ 2.ルカ二章と歌詞
では、引照聖句と讃美歌歌詞を織り交ぜながらご紹介致します。

 _†_ (ルカ2:8)
ルカ2:8 さて、その地方で、羊飼いたちが野宿をしながら、羊の群れの夜番をしていた。
 _†_†_†_

■_♫~ 1節 ~♫
 ひつじはねむれり 草のとこに
 さえゆく冬のよ  霜もみえつ
 はるかにひびくは 風か水か
 いなとよみつかい うたうみうた
~♫

一節前半は、預言成就を待ち望む冬の夜の静かな世界を描写し、「霜もみえつ」=「霜がみえる」と歌い、
後半は、そこに突然訪れた御告げを、「遠くから響くのは風の音か、水の音か、いやそうではない、天使がうたう歌だ」と歌っています。

 _†_ (ルカ2:9-12)
2:9 すると、主の使いが彼らのところに来て、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。
2:10 御使いは彼らに言った。「恐れることはありません。見なさい。私は、この民全体に与えられる、大きな喜びを告げ知らせます。
2:11 今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになりました。この方こそ主キリストです。
2:12 あなたがたは、布にくるまって飼葉桶に寝ているみどりごを見つけます。それが、あなたがたのためのしるしです。」
 _†_†_†_

この、御使いによる告知の情景が二節で歌われます。

■_♫~ 2節 ~♫
~明治42年(1909)刊 『さんびか第二篇』 初出(しょしゅつ)歌詞
 みくにをてらせる つきかほしか
 まひるもおよばぬ 奇しきひかり
 すくひとやどれる あいの御子の
 聖誕(みあれ)をことほぐ いはひの火か

~昭和29年(1954)刊 現行 『讃美歌』、初出歌詞が大幅に改訂されています。改訂者は不詳。
 まひるにおとらぬ くしきひかり
 み空のかなたに てりかがやく
 すくいをもたらす 神のみ子の
 生まれしよろこび 告ぐる星か
~♫

 _†_ (ルカ2:13-14)
2:13 すると突然、その御使いと一緒におびただしい数の天の軍勢が現れて、神を賛美した。
2:14 「いと高き所で、栄光が神にあるように。地の上で、平和がみこころにかなう人々にあるように。」
 _†_†_†_

この御言葉に応答して、三節では 「世界で最初のクリスマスに天使たちがうたった歌を、私たちの信仰告白として歌おうではないか、友よ!」 と呼びかけます。

■_♫~ 3節 ~♫
 あめにはみさかえ 神にあれや
 つちにはおだやか 人にあれと
 むかしのしらべを 今にかえし
 うたえや友らよ  声もたかく
~♫


■ 3.この讃美歌の魅力
この讃美歌の魅力は何にあるのでしょう。国語力が貧弱な私の思いですが、

・八六調四句形式の荘重なしらべで歌われていること。
・古典和歌が有する日本の美意識・自然観を感じさせる言葉と表現が用いられていること。

などがあるのではないでしょうか。その一方で三輪源造の歌詞について、

「花鳥風月趣味(*2)の自然感情に近づき過ぎて、信仰詩としての性格を逸脱している」
「クリスマスが日本人の新年的理解で歌われている」

(*2) 花鳥風月
花鳥風月(かちょうふうげつ)には次の二つの意味があります。(出典:大辞泉)
1.自然の美しい風景。
2.自然を相手に詩・絵画などをつくる風雅な遊び。風流。

との批判もあったようです。確かに、そう受け取れなくもないですが、三輪源造の歌詞は、
・花鳥風月と言った古典和歌の美意識・自然観を感じさせつつも、その限界を超越して「創造主への視座」を明確に保っています。
・一節では、寒さ厳しい暗闇に閉ざされながらも預言成就を待望する世界の情景が、日本の新春(元旦)前夜の情景に重ねられており、
・二節三節では、新年を期待に胸膨らませて迎える日本人の喜びに重ねて、救い主が来て下さったクリスマスの喜びが歌われています。

これらが、この讃美歌の魅力のひとつだと思うのですが、皆さま、如何でしょうか。


■ 4.結び
西山姉が提供して下さった讃美歌集を使っていたPresbyterian church (長老派教会)で讃美歌集が改訂された時に、「羊は眠れり Sheep Fast Asleep」が削られたそうで残念ですが、日本では 『讃美歌21』にそのまま継承され252番で収録されています。

世の中は変わります。三輪源造の生まれ故郷も、鳥居忠五郎が曲想を練った呑川(のみかわ)界隈も、すっかり変わりました。
「しかし、われわれの神の言葉は とこしえに変ることはない」(イザヤ40:8、口語訳 )のです。
私たちは日本的自然観と美意識を重んじながらも、大自然を想像し摂理される創造主への視座を堅持し、御使いの告知を聞いた「羊飼いたちは、見聞きしたことがすべて御使いの話のとおりだったので、神をあがめ、賛美し」(ルカ2:20)た如く、御国に向かって共に日々前進して参りましょう。


添付ファイル (要パスワード)

  1. 動画へのリンク (R1).pdf

2023年 メッセージ一覧

岡本牧師と共に味わう讃美の力 (第28回) 「羊は眠れり」Sheep Fast Asleep~シンシナティ日本語教会主催

日本時間12月22日(金)午前10時~11時、アメリカ東部時間12月21日(木)午後8時~9時、「岡本牧師と共に味わう讃美の力」集会をオンラインで開催しました。

岡本牧師と共に味わう讃美の力 (第27回) 「キリストにはかえられません」I'd rather have Jesus~シンシナティ日本語教会主催

日本時間11月17日(金)午前10時~11時、アメリカ東部時間11月16日(木)午後8時~9時、「岡本牧師と共に味わう讃美の力」集会をオンラインで開催しました。

岡本牧師と共に味わう讃美の力 (第26回) 「父の神の真実」、Great is Thy Faithfulness ~シンシナティ日本語教会主催

 ~ ♪ ~ 父の神の真実は とこしえまで変わらず慈しみと憐れみは 尽きることがありません素晴らしい主 その真実は 朝ごとに新しく深い恵み知らされて 讃美します 主の御名 ~ ♪ ~ 歌い始めると、私たちは深い慰め、平安に包み込まれる、そういった不思議な魅力ある讃美歌です。

岡本牧師と共に味わう讃美の力(第25回)「心を高く上げよう」Lift Up Your Hearts (Sursum Corda)~シンシナティ日本語教会主催

歌声が聞こえます。 ~ ♪ ~ こころを高くあげよう主のみ声にしたがい、ただ主のみを見あげて、こころを高くあげよう。霧のようなうれいも、やみのような恐れも、みなうしろに投げすて、こころを高くあげよう。 ~ ♪ ~ 今あなたが、どのような状況にあろうとも、「こころを高くあげよう」、「(神様から力をいただいて)元気を出そう」と。

岡本先生と共に味わう讃美の力(24) ~ 讃美歌391番 「ナルドの壺」 (シンシナティ日本語教会)

今回取り上げた讃美歌「ナルドの壺ならねど」(原曲名:Love's Offering)は、エドウィン・パーカー(Edwin Parker, 1836-1925)により作詞・作曲され、広く愛唱されている讃美歌です。この歌詞の背景には、主イエスが十字架にお掛かりになる直前、ある女性が高価なナルドの香油が入った壺を割って主イエスに注いだ出来事があります。そしてこの歌詞は、私たちを主イエスへの信仰、家族や友人への愛と寄り添いについて深い黙想へと導いてくれます。

岡本先生と共に味わう讃美の力(23)「さかえにみちたる」 Glorious Things of Thee are Spoken~シンシナティ日本語教会主催

讃美歌の作詞者は、あの「アメイジング・グレイス」の作者ジョン・ニュートンです。旋律には、ハイドン作曲の荘厳で格調高い旋律(弦楽四重奏曲第77番「皇帝」の第2楽章としても知られる)が使われ、1802年に英国で出版されたことから広く愛唱されるようになりました。また、この旋律は旧オーストリア帝国と旧ドイツ帝国の国歌、そして現ドイツの“国歌”でもあります。つまり、同じ旋律が「神(の国)」と「地上の国家(権力)」を頌えたのです。このことは奇しくも「人はみな草のよう。その栄えはみな草の花のようだ。草はしおれ、花は散る。しかし、主のことばは永遠に立つ」 (Ⅰペテロ1:24-25)ことを証しする結果になりました。

岡本先生と共に味わう讃美の力(22)「主の愛はとこしえまで」 The Steadfast Love of the Lord ~シンシナティ日本語教会主催

今回取り上げた讃美歌は、旧約聖書「哀歌」の3章22-23節だけをテキストにしています。その「哀歌」ですが、旧約聖書全体の中でも最も悲しみに満ちた書物で、筆者エレミヤは、バビロンにより破壊し尽くされたエルサレムとエルサレム神殿を目の当たりにした悲しみを書き綴りました。しかし、エレミヤはこううたいました。「私たちが滅びうせなかったのは、主の恵みによる。主のあわれみは尽きないからだ。それは朝ごとに新しい。あなたの真実は力強い」と。この聖句を歌うこの讃美歌は、悲痛の極み絶望の淵に沈む人々を慰めと励まし、確かな希望と生きる勇気を与えてくれます。

岡本先生と共に味わう讃美の力(21) 聖歌273番「いのちの泉に」Come, Thou Fount of Every Blessing ~シンシナティ日本語教会主催

今回取り上げる讃美歌は、「救いは、いのちの泉なる主イエスに拠り頼む以外にない」との作詞者自身の体験(証)を、サムエル記上1章1~13節に重ねて情熱を込めて歌っています。

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岡本先生と共に味わう讃美の力(19) 「さかえの主イエスの」 (When I Survey the Wondrous Cross、讃美歌142番)

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